山口祐未|水神信仰と伝承?祭事の融合と文化変容 -山形県西置賜郡長井市の水神信仰を事例に-
山形県出身
松田俊介ゼミ
目 次 1.はじめに/2.研究概要/3.先行研究/4.調査?分析/5.考察/6.おわりに
本研究は、山形県長井市の水神信仰を事例に、日本の民間信仰の変容と地域に根付いた信仰の起源と性格を考察していく。長井市は最上川、野川、白川の合流地点であり、水と川に縁の深い地域で、河川流域付近の地域では特に水神信仰が根付いている。特に小出、宮村では特徴的な水路の街並みを形成しており、「最上川上流域における長井の町場景観」が国重要文化的景観に選定されている。河川付近の地域は同時に水害のリスクも抱えており、地域の自然と歴史が深く結びついた環境であることが伺える。全国の水神信仰の先行研究では、水神を信仰は地域ごとに異なり、地域の状況や経験に根ざしている、また、水神に全国的な統一は存在せず、 各地の信仰実態に即して観察すべきだと指摘されている。
長井市の水神信仰では、置賜野川と最上川の合流点にある総宮神社が中心に龍神信仰が根付いている。龍神を黒獅子が舞われる「黒獅子祭り」や戦に敗れた姫が龍神へと化身する民間伝承「卯の花姫伝説」などが存在し、これらが地域の歴史や信仰、文化と結びついている。これらの祭事や伝承は地域において観光資源としても重要な役割を果たしている。
長井市の水神に関する調査では、「黒獅子」と「水神伝説」を軸に、「三淵神社参拝登山の聞き書き調査」「黒獅子祭りでの聞き書き調査」「卯の花姫伝説を含む伝承の文献比較とインタビュー調査」の3つの調査を行った。コロナ禍明けで初めて制限なしに開催された2023年の黒獅子祭りでは、コロナ収束の祈願のために「疫病退散」などの言葉が掲げられ、祭りの根幹を維持しつつ、も時代の苦悩や願いを取り入れながらも変化していると推察した。三淵神社参拝登山では形式的な儀式は続いているが、信仰や伝説へ意識が薄れつつあり、厳粛さが緩和されている状況が調査にて確認できた。卯の花姫伝説の文献調査では、初出から複数の文献を分析し、龍神と獅子舞の関連が時系列的に浮かび上がった。特に総宮神社関連の文献が水神信仰と獅子舞の融合に影響を与えていると分析した。
考察では、伝説や祭りは信仰と文化が融合し、現代においては観光資源として役割を担いつつ変容を遂げていると結論づけた。