東洋絵画修復に用いられる布海苔の抽出について
大町のぞみ
青森県出身
東洋絵画修復ゼミ
東洋絵画修復ゼミでは、さまざまな接着剤が使用されている。その中でも布海苔は、使用方法など記されているものも少ない。近年は東京文化財研究所の早川典子氏らによる布海苔の特性に関した研究論文もでているが、使用方法や特性に関して技術者の経験によるところの多い材料となっている。その布海苔について興味を持ち、研究することとした。実際の使用時の抽出方法に近い形で抽出し、抽出の条件の違いによってフノリ溶液の抽出量等にどのような違いが出てくるのかを考察した。また、湯煎と直火での加熱方法の違いでの水分蒸発量と温度上昇変化の比較、布海苔の浸水時間における水分吸水量の考察をマフノリとフクロフノリではどのような違いがあるのかを考察した。
結果として浸水時間でのフノリ溶液の抽出量をみると、マフノリは浸水時間に半比例し減少していたが、フクロフノリからは相関性のようなものが見られなかった。マフノリとフクロフノリの加熱時間での水分蒸発量は、直火は開始から急激に減少していが、湯煎は初めのうちは緩やかに減少し、温度が80℃近くになったところから急激に減少していた。その後、開始60分後まで観察したが最終60分の時点では、どちらも開始時の水分量の約60%になっていた。温度変化に関しても、直火は10分程で90℃に達していたのに対し、湯煎は約30分かかっていた。また、この観察に関しては、マフノリとフクロフノリでは大きな差は見られなかった。マフノリとフクロフノリの浸水時間における水分吸水量に関しては、マフノリが吸水量の上限と思われる時点まで約25分かかっていたのに対し、フクロフノリは約10分で吸水量の上限に達していた。吸水量に関して、フクロフノリはマフノリの約75%の量しか水分を含んでいなかった。
本研究より、布海苔は短時間で吸水しフノリ溶液を抽出するには時間がかかることやマフノリとフクロフノリでは吸水量に違いがあることなどがわかった。今後、今回の研究で行うことのできなかったフノリ溶液の濃度に関しての実験やフノリ溶液抽出後の布海苔の残滓量に関する考察を行なうことで、より詳しく布海苔の特性を知ることが出来ると考える。またその特性を基に、使用方法に応じてこれらの方法を使い分けることにより布海苔の有効性が増すものと考える。